横浜地方裁判所小田原支部 昭和51年(モ)177号 判決 1976年11月18日
債権者
杉浦勘一
外四名
右債権者ら訴訟代理人
五十嵐敬喜
債務者
神奈川県落花生商工業協同組合
右代表者
高橋重保
右訴訟代理人
渋谷泉
主文
一、債権者らの債務者に対する当庁昭和五一年(ヨ)第六三号仮処分申立事件について昭和五一年五月八日なした仮処分決定は取消す。
二、債権者らの右仮処分申請を却下する。
三、訴訟費用は債権者らの負担とする。
四、この裁判は一項に限り仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一債務者組合は、昭和二六年頃神奈川県において落花生を扱う業者を組合員として中小企業等組合法にもとづき設立された組合で社団法人であり、本件土地および倉庫を所有し、昭和五一年五月二四日以前においては債権者ら五名も含む総勢一六名の組合員によつて構成され、債権者らも右時点までは各自持分一六分の一を有する組合員であつたこと、債務者組合は、昭和五〇年一一月五日の臨時総会において従前の定款一四条が「組合員が脱退したときはその持分全額を払い戻す」と定めてあつたのを「本組合に対する出資額を限度としてその持分を払い戻す」と改正したほか翌五一年五月二四日の定期総会において債権者野原を除名処分にしその事業目的である保管業務を休止し本件倉庫内の収容品全部を同年六月三〇日までに撤去すべきことを決定し更に同年八月九日の臨時総会において債権者渡辺同杉浦を除名処分に付したこと、債権者らは債務者組合を相手に裁判所から本件土地および倉庫に対する共有持分権を有することを保全権利として昭和五一年五月八日その物件の処分禁止の仮処分決定を得たこと、債務者組合を被告として債権者野原は昭和五一年(ワ)第一四八号除名無効確認の訴をその余の債権者らは同年(ワ)第一七一号債務者組合員たる地位存在確認の訴を提起していることはいずれも当事者間に争いがない。
二ところで本件仮処分決定の目的たる保全権利をみるに、同決定は、債権者らは債務者組合の構成組合員たる地位を有することを前提に同組合が所有する本件土地および倉庫に対し物権法上の共有持分権をもつていることを認めたものであるがその保全権利に債権者らの右物件に対する占有権をも包含させたものでないことその主文自体からして明らかである。
そこでまず債権者が仮に債務者組合の構成組合員たる地位にもとづいて社団法人たる債務者組合が所有する特定の本件土地および倉庫に対し物権法上の共有持分権をも有するものとみるべきか否かを検討するに債権者らに右のような共有持分権を有することは当然否定せざるを得ない。けだし社団法人はその構成員とは別個独立の法人格を有するものであるからであり、中小企業協同組合法二〇条および前記債務者組合定款一四条で認める脱退組合員の持分払戻請求権も右論理を前提とすること明らかだからである。
右に対し債権者らは、債務者組合はその主たる事業目的を唯一の所有財産である本件土地および倉庫を利用しての共同保管事業としていたものであるところ、この事業を前記のとおり休止し右物件を他に処分することを決定しているからその法人たる実体は形骸化し法人格否認の法理が適用されるべく、そうすれば債務者組合の実体は民法上の組合と同一となつて債権者らはその所有財産に対し物権法上の共有持分権を有するに至る旨主張するが、そもそも右法理は、特定の法主体が他の特定の法主体を現実的統一的に支配してその被支配主体者に独立の法人格を認めるべき実体がなくなつた場合その被支配主体者に対し特定の法律関係において適用されるべきものであるから、単に唯一の所有財産を他に売却処分する一事をもつて適用されるべき法理でないことはもちろんのこと仮にその被支配主体者に法人格否認の法理が適用されるべき場合でもその実体をただちに民法上の組合と同一視すべき法理でもない。しかも債務者組合とその構成員たる特定の組合員との間に右支配関係を認めるに足る証拠もない。
そうすると、その余の主張について判断するまでもなく本件仮処分は法律の適用を誤り債権者らに対し本件土地および倉庫に対して共有持分権を有しないのに有するものと解しこれを保全権利とした決定として失当であり、取消すのが相当である。
三よつて以上の理由から民事訴訟法七五六条七四五条二項にしたがい本件仮処分決定を取消したうえ債権者らの同仮処分申請を却下することにし、訴訟費用分負担につき右同法八九条九三条一項本文を仮執行の宣言につき同法七五六条の二・一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。
(藤枝忠了)
物件目録<省略>